コーヒーとミルク





「お疲れ様っす」

青春学園テニス部所属の越前リョーマは部活が終わると部室を飛び出す。

いつもと様子が違う越前に、何人かの部活の先輩は不思議な様子。

それはそのはず、越前リョーマはこれからデートなのである。

それも相手の誕生日ということもあって、待ち合わせの時間までプレゼントを買わなければいけない。

数ヶ月前に付き合い始め、誕生日が今日と知ったのは最近のことで、越前はかなり焦った。

何を買うか悩みながら、時間はどんどん過ぎていく。

好みもまだ、そんなに知らない。

しかも何をあげていいのか分からない。

『乾先輩か部長に聞けばよかったかな…』

そんなことを思いながら、結局スポーツ用品の前に立ち止まってしまう。

越前はくすっと笑みをこぼしながら、その店に入っていく。

何とかプレゼントを購入し、制服の姿のままで駅前の定番になっている待ち合わせ場所までたどり着いた。

まだ、10分ほど早かったが、そこには待ち人がすでに来ていた。

同じように制服姿で背の高い、立海大、テニス部副部長の真田弦一郎だった。

「真田さん」

声をかけ、近づくと、その真田の隣に同じ立海大の柳が立っていた。

思わず、越前は足を止めてしまった。

2人の中に入れない雰囲気がそこにはあった。越前はそう感じた。

「弦一郎、誕生日おめでとう」

柳は笑みを浮かべながら小さい袋を真田に渡す。

「ありがとう、蓮二」

真田も袋を受け取りながら笑みをこぼした。

「…俺にはあんな笑顔向けてくれたことない…」

ふと、越前はそう思うと、その場から逃げたくなった。

以前から柳が真田のことを想っていることを知っている。

越前も2人はそういう仲だと思っていたほどだった。

それでも、真田は越前のことを好きだといってくれた。

その言葉は本当だと信じている。

でも。

あんな2人をまだ、間近に見るのは辛い。

真田さんを信じてるけど、あの2人の間に入れる気がしない。

そう思ったら、何だかやるせなくて、来た道を戻っていた。

「越前っ!」

遠くで自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。

でも耳からすぐに抜けていった。






待ち合わせの場所に30分も早く来た真田だったが、柳も用があるというので一緒に来ていた。

越前が来るまで、ということで雑談をしながら、2人で待つ。

その待つ間に柳は真田に誕生日プレゼントを真田に渡す。

柳にとって、真田は友人であり、仲間でもあり、ずっと想い続けてきた存在であった。

もともと2人は恋人同士ではなかったが、そんな雰囲気があったのは確かだった。

真田自身が越前のことを気にし始めてから、柳は真田のために身を引いた。

結局、恋人以上にはなれなかったのだ。

そんなとき、待ち合わせ場所に越前が歩いてきた。

真田は越前に気づくと声をかける。

しかし、越前は呆然と立ち、真田の声にも気づかなかった。

何をいうのでもなく、いきなりその場から立ち去った越前を真田はどうしていいか、分からず立ち尽くしていた。

「弦一郎、早く追いかけてやれ。越前を失いたくないなら…」

真田はその柳の言葉にうなづくと、越前を追っていった。

「柳も人がいいね。あのまま奪えばいいのに…」

柳の背後から同じ立海テニス部部長の幸村が声をかけた。

「相変わらず過激発言だな。本気でそう思ってはいないだろう」

幸村は答えずに笑みをこぼした。

「ふふ、それにしてもあの真田が越前と恋人になるとはね…」

柳は笑みをこぼす。

「ま、とりあえず買い物に付き合ってよ、柳」

幸村はそういいながら、柳を強引に連れ出した。

「美味しい和菓子の店を見つけたんだよ。後でブン太に買ってあげなきゃね」

はしゃぐ幸村の声が辺りに広がっていた。




越前は無我夢中で歩いていた。

その場からただ、立ち去りたくて。

気がつくと、駅近くの繁華街まで来てしまったらしい。

制服なのが余計に目立っているらしく、通りすがりの何人かと目が合う。

「戻ろう」

そう思うが、なかなか足が重い。

彼のことだから自分を探しているのだろう、と思うと申し訳ない気持ちにもなった。

携帯がなる。

真田から。

出たくない。でも…今日は真田の誕生日なのだ。

一緒にいたいだけなのに、何でこうなったのだろう。そう思う。

「何やってんだろ、俺…」

急に寒くなった気がして、路地裏に逃げ込んだ。

「真田さん」

何だか、情けなくて涙が出てきた。



「越前、探したぞ」

目の前に真田が息を切らして立っていた。

「どうして・・・?」

「それはこっちの台詞だ」

真田は眉間にしわを寄せている。

一瞬、怒られると思ってしまった越前だったが、ふんわり。と温かさに包まれた。

「心配させるな、たわけが…」

真田は越前を優しく抱きしめながら、静かに言った。

「…真田さん…ごめんなさい…俺…」

「もう…泣くな、越前」

そして、やさしく口付けをした。



落ち着いた越前と真田は近くのバーガーショップへ向かう。

店内は夕暮れ時なのか、少し客が多かったが角の席へ座る。

まだ少し元気のない越前だったが、ファンタを飲みながら、一息ついた。

それでも2人はただ、会話もなく、飲み物か食べ物を口に運ぶだけだった。

「…真田さん…」

越前は真田の名を呼ぶ。何をどう伝えていいのかためらっているかのようだった。

「…真田さん…俺…」

そこまででかかった言葉がまた途切れ、間が開く。

そして、小さく。

ー真田さんと柳さんに…ヤキモチ妬いてたー

そうつぶやいた。

ヤキモチなんて妬く必要がなかった。

真田が越前をどんだけ大事にしているか知っていたのに。

でも、あの2人の間には入れないから…

越前も真田とあの2人のようになりたかったから。

「そうか」

真田はそう言った。

そして、また沈黙が流れた。

「越前」

今度は真田が口を開いた。

うつむいていた越前は顔を上げた。

「送ろう」

真田は立ち上がって、越前を連れて店を出た。

「真田さん…俺、まだ…」

帰りたくない。このモヤモヤしたまま、帰りたくないと越前は思った。

人通りの少なくなった小道を真田は歩く。その後ろを越前がついて行く。

真田の背中を追いかけながら、彼に期待していた自分がいた。

「真田さん」

越前が真田の名を呼んだとき、真田は立ち止まり、後ろを振り返った。

真田は再び越前を抱きしめると

「越前、すまない。俺にはこんなときどうしていいかわからない。
お前が蓮二と付き合うなといっても、俺にはできないし、気の利いた言葉も俺にはわからない…」

「真田さん…」

越前は真田の胸の中で彼の温もりを感じていた。

彼の必死さと一所懸命さが肌から伝わってくる。

「だが、俺の世界からお前が消えてしまうのは耐えられん…だから、俺の前から消えるな…」

真田は力強く越前を抱きしめた。

越前もそれに答えるかのように両腕を真田の背中に回した。

ーこういう人なんだ、真田さんはー

越前はそう改めて感じ、静かに涙を流した。


その後、時間も遅くなってしまい、家が近い真田邸に泊まることになってしまった越前だった。

越前にとって緊張はしたものの、嬉しかった。

家族を紹介され、服も真田のものを借り、泊まりということもあってワクワクした。

「越前、無理いってすまなかった」

布団を横に並べ、互いの顔を見合わせながら横になっていた。

「俺の方こそ、ごめんなさい。せっかくの真田さんの誕生日なのに…」

越前はそこまでいうと、カバンにプレゼントをしまったままになっているのを思い出した。

「真田さん、誕生日おめでと」

袋が少しヘタレ、越前は申し訳なさそうにそれを渡した。

「ありがとう、越前」

真田は越前の側に寄り添い、軽く唇に触れた。

「…真田さん…好き…」

「越前…俺もだ」


何だかんだで仲良くなった2人でした。






おわり






真田さんの誕生日小説。初の真リョを挑戦しました。
何だか真田さんかっこいいんだかかっこ悪いんだかわかりませんでしたね(笑)
リョーマくんも乙女ちっくっぽくなった気がします…
最初考えていた話は柳が途中に互いのメールにメッセージを残して、
2人を仲直りさせるような話でしたが、なくなりました。
真田さん、頑張れ。
ちなみに泊まったけどまだキスだけの2人です。
真田がリョーマと呼ぶ日は来るのだろうか。
タイトルは適当につけました。
苦いのと甘いのと混ぜると丁度いいという感じで。
分けわかんないですね(汗;)